円舞曲が風に吹かれて
春の日差しが照り付ける森の中をひとりの少年、ひとりの少女、ひとりの幼児と一匹の犬、それにペットロボを載せたワッパが走っている。
荷台に座っている少女が運転している少年に話しかける。
「ありがとう、ウッソ。急なお願いだったのに聞いてくれて…」
「もともと畑の仕事が非番だったからね…それに僕もカルルを遠くに連れて行ってやりたいなとは思ってたしさ」
きっかけはシャクティからだった。戦争が終わってカサレリアに帰り、秋が過ぎ、冬が過ぎ、ようやく暖かい空気を感じるようになったある日、家族でどこかへ出かけたいとふと思ったのだ。
しかしどこへ…?こういう時にレジャー施設や観光地といった考えが浮かばないのはシャクティのその贅沢を好まない性格故ではなく不法居住地に暮らす者に共通の思考である。最初からそういった選択肢は存在しないのだ。
そこでシャクティの頭に浮かんだのはちょうど一年前、ウッソの操縦するコア・ファイターに乗って行った、初めて目にする視界一面の花畑であった。
地下のコンピュータバンクで検索するとライラックという名前の花らしい。花言葉が「思い出」「初恋」「青春」というのがとても気に入った。毎年春になったらウッソとカルルとあの綺麗な景色を見れたらとても素敵なんだろうな…!
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ウッソに地図で調べてもらうとライラックの花畑には早朝にカサレリアを出発すれば昼前には到着できる距離だった。
まだ日が明ける前に目を覚ましたシャクティは、ウッソとカルルを起こさないようにそうっとベッドから出て腰にエプロンを巻くとお昼のお弁当を作り始めた。
ウーイッグの街で買ってきたパンにエリシャさんから貰った新鮮な卵やつい最近収穫できた春キャベツを挟んでサンドイッチを作る。
なにかおかずも欲しいと思い、じゃがいもとベーコンと胡椒だけのシンプルなジャーマンポテトも作るシャクティ。
ベーコンはウーイッグの街で買ったものだ。以前はウッソの家で豚を飼っていたがミューラおばさんが元気だったころにハムにしてしまい今は一匹もいない。ウッソと話してモビルスーツのパーツを分解してお金にして何頭か買おうという考えている。今年の冬には間に合うだろう。
完成したサンドイッチとジャーマンポテトを容器に詰めていると寝室のドアが開いてウッソが目をこすりながら起きてきた。
「おはようウッソ!今パンを焼くから少し待っててね…」
「パンくらい僕が焼くから大丈夫だよ…それよりシャクティはお弁当を作ってくれたんだしさ、少し休んでなよ」
ソファーに座ってうとうととしているとトーストの芳ばしいいい香りがしてきた。
その香りにに引き寄せられるように寝室のドアがキイッと開いてぬいぐるみを抱えたカルルが入ってくる。
「おはよう…まだおそとくらいのになんでうっちょもちゃくてぃもおきてるの…?」
「おはようカルル。今日はね…みんなでお花畑に行くのよ」
「おはなばたけ?」
「綺麗なお花がたくさんある所よ。きっとカルルも楽しいと思うわ。」
「きれいなおはながいっぱいあるんだ…」
その間にテーブルにトーストとリンゴのジャムを並べ終わり、3人のコップにリンゴジュース注ぐウッソ。
「そうだよカルル。だけどね、ここから少し遠いところにあるんだ。だから早起きして早くお出かけするんだよ」
「わかった!カルルたのしみ!」
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花畑には予定通り昼前に到着できた。一年前はコア・ファイターに乗ってウッソの作戦としてだったけど、今回は一家の休日のピクニックだ。
風が吹くと花びらが舞い散る。ライラックの甘い香りに包まれてうっとりとするシャクティ。
一年前も花は綺麗だったけど香りを嗅いだりこんな風に舞う花をゆっくりと見ることなんてできなかったわ…けれど今は…!
「ちゃくてぃー、おなかちゅいた…」
足元を見るとカルルがスカートの裾を引っ張っている。
「よし!さっそくお弁当にしようか!」
ウッソがワッパに積んであるレジャーシートを持ってきて草原の上に広げる。
「さあお昼よ…」
カゴにはサンドイッチとジャーマンポテトがいっぱいに入っている。手元には水筒が二本、アイスコーヒーの入っているものとカルルのためのリンゴジュースの入っているものだ。
「「いただきます!」」
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張り切って作りすぎてしまったかと思ったが、あっという間に食べてくれてシャクティは嬉しかった。
暖かい日差しに照らされてほのかな睡魔に襲われるウッソとシャクティ。すでにフランダースは気持ちよさそうに草原の上で眠っている。
「うっちょ!いっちょにあちょぼ!」
「ごめんよ、運転で疲れちゃったんだ…そうだ!カルルにお願いがあるんだ!」
「なあに?おねがいって…」
ウッソがカルルの耳元に何かごにょごにょと話している。
「わかった!カルル行ってくる!」
「頼んだよ!ハロ、カルルをお願いね」
「ハロ!ハロ!コッチダ!カルル!」
ハロがぴょんぴょんと跳ねて行って、それをカルルが追いかけていった。
「カルルに何を言ったの?ウッソ…」
「ひ、み、つ。それよりさ、シャクティ…」
ウッソの手がスカートの裾から太ももに伸びてくる。その感触にひゃっ!と声を上げてしまう。
はしたないわ、こんな所で…カルルもいるのに…
「ちょっとウッソ…カルルに聞かれたらどうすr…ひゃん!」
太ももの上の方まで手が伸びてきて、更に声を上げてしまう。
「ハロと木の向こう側へ行ったから大丈夫だよ…ねえ、僕シャクティの可愛い花も見たくなっちゃったんだ…」
「だ、だからって…あんっ!」
ウッソの顔がスカートの中に侵入し、舌先で太ももを刺激し始めた。
カルルがいる手前、口では嫌がってみせるも実際のところは自分で両脚を開いてウッソを迎え入れているシャクティ。
ライラックの香りと草原の若草の香りの中、ウッソから与えられる太ももへの刺激に頭がとろけそうになってしまう。
左右の太ももをひとしきり刺激し終わると、いよいよウッソの手が純白の布に包まれた小さいつぼみに向かっていく…
と、そこへ「ハロ!ハロ!」
やや離れた木の陰からハロの声が聞こえた。とっさにシャクティのスカートから顔を出すウッソ。しかしシャクティの下半身に対面した姿勢でいるのが木陰から出てきたカルルに見られてしまった。
満面の笑みで向かってくるカルル。両手にはライラックの花びらを握りしめている。
「うっちょ!とれたよ!おはなたくさん!」
「カルルありがとう!シャクティにわたしてあげて」
「どうじょ!ちゃくてぃ!」
シートに横になったままのシャクティに両手を差し出すカルル。
「まあ!ありがとう!とっても嬉しいわ!」
「うっちょにいわれたの!だからかるる、はろといっちょにおちているおはなあつめてきたの」
「そうだったのね、ウッソ」
横にいるウッソを振り向く。
「ああ、うん…これで香水でも作ったらどうかなと思ってさ…普段街で香水なんてなかなか買えないだろ?だから…」
「ありがとう!ウッソ!私、もっとウッソに夢中になって貰えるようになるわ!」
ウッソに抱きつくシャクティ。ウッソはその日差しで暖かくなった髪をよしよしとなでる。
「そうだうっちょ…」
「あ、ああ…なんだい?カルル」
慌ててカルルの方に視線をやるウッソ。
「さっきちゃくてぃとなにしてたの?ちゃくてぃのすかーとにおかおちかづけていたけど…」
「あ、あれは…シャクティのスカートにとげがくっついていたから取ってあげてたんだよ。ほら、肌に刺さるとあぶないだろ?」
「そ、そうよカルル。もう全部取ってもらったから大丈夫よ…」
「ふうん…」
その後、カサレリアに帰ってきたカルルから顛末を聞いたマーベットに呼びつけられたがふたりが「場面をわきまえなさい!」と叱られたことは言うまでもない。